あの夏の日、僕は友達の自転車を追いかけて走っていた

こぼれ話

みんなは、どうやって自転車を手に入れるんだろう?

この疑問を解き明かすのに、僕は14年の歳月を費やした。

僕は14歳の春に、自分が貯めたお金で自分の自転車を買った。

兄貴もそうしてたから、何も不思議じゃなかった。

可哀そうなのは弟だ。

せっせとお金を貯めていたのに、自転車の置き場所が無いという理由で自転車を買わせて貰えなかった。

結局、兄貴が高校を卒業し自転車もろとも家を出た後に、ようやく自転車を買う許可がおりたのだ。

大事な部分なので強調しておくと、買って貰えることになったのではなく、自分のお金で買うことに許可がおりたのだ。

みんなは、どうやって自転車を手に入れてるんだろう?

自転車は親に買ってもらうのが一般的であるということを知ったのは、僕が中学2年生のときだった。

既に自分のお金で自転車を買ってしまった後なので、親に自転車代を請求しようかとも思ったが、それでお金をくれるような親なら最初から自転車を買ってくれただろう。

いろいろ思考を巡らせ辿り着いた言葉は「後の祭り」だった。

僕は自分が貯めたお金を全て使い果たしてでも自転車を欲しがっていた。

そこには、小学生のときから抱いてきた劣等感があったからだ。

小学生のときは近所の友達とよく遊んでいた。

最初は近くの空き地や公園で他愛もない遊びに興じていたのだが、学年が上がるにつれ徐々に遠方へ遊びに行くようになってきた。

必然、移動手段は「歩み」から自転車へと移り変わったのである。

僕以外は・・・

なぜ、みんな自転車を持っているの?

どうやって自転車を手に入れてるの?

ルービックキューブの本物はどこに売ってるの?

僕の持ってるキューブは偽物?

様々な疑問を胸に秘めながらも、自転車を持ってないという事実は受け入れざるを得ない。

諦めるか・・・

あるいは、ドラえもんにお願いするか・・・

でも、僕の机の引き出しから丸いネコ型ロボットが出できたためしはないのである。

結果、

小学生の自転車軍団の後ろには、いつも自転車を追いかけて走る僕がいた。

集団的にはシンガリを務めていたわけである。

暴走族なら、なかなかのポジショニング。

それが僕。

友は優しかった。

僕の走りに合わせ、ゆったりとしたスピードで自転車を漕いでくれる。

ときどき話しかけてくれもした。

うれしかった。

けど僕は、常に息が切れているため、鬼の形相でゼイゼイするばかり。

ごめんな・・・

けして、

自転車に乗って楽しやがって!こっちの身にもなってみやがれ的な思考は微塵も無かったのだよ。

小学生も6年生になると、ある思いが芽生えはじめる。

いや、「芽生え」というよりも、「気付き」と表現すべきだろう。

そもそも、早く遠くまで行きたいから自転車に乗っているのに。

なのに、

なぜか、

ひとり走ってるヤツがいる。

走ってるヤツにスピードを合わせるから、

自転車移動によって得られるはずの時間的メリットが失われている。

ていうか、

そもそも、

なんでコイツは自転車もってねーの?

である。

僕は決意した。

買おう、

買おうではないか、

自転車を。

友達に自慢できるような、

不必要に段数が多い12段変速機能付きのスゲーやつを。

ライトがカウンタックのようにパカパカ開閉するやつを。

早速自転車屋に走った。もちろん人力で走った。慣れたものだ。

残念ながら変速は6段しかなかったが、カウンタックのようにライトがパカパカするヤツはあった。

ついに自転車を買ったのだ。

5万円だったのだ。

高いのだ。

中学生にとっては超高額じゃないか。

こんなもの本当に中学生が買っても良いのか?

少し疑問は残ったものの、自転車屋のオヤジは上機嫌で売り渡してくれた。

それからというもの、自転車軍団の後ろを走って付いて行く僕の姿を目にする人はいなくなった。

当たり前だ、

走っていないのだから。

子供の成長は早いという。

特に中学生のころは、自分でも驚くほど成長する。

僕も例にもれず成長期を迎えていた。

そう、伸びるわ伸びるわ、手足がグングン伸びていったのだ。

その結果、5万円もの大金を叩いて買った自転車が小さくなってしまった。

しかも、ママチャリスタイルではない、カウンタックのようにライトがパカパカするスポーツタイプの自転車だったため、足の成長が致命的だった。

ハンドルを切ろうとすると、自分の足が邪魔で20度くらいしか切れない。

どれだけ大回りやねん!と自らの自転車に突っ込みを入れていたら、曲がり切れず壁に突っ込んでしまうという・・・事故。

前輪は、本来の「円」を保っておらず、サーカスの曲芸用自転車のようになっていた。

この事故が起きたのは自転車を買って僅か1年後のこと。

もう自転車は買わない!って思った。

いや、買えない!って思った。

思ったというか・・・

買えない・・・

お金ないし。

以後、僕はあまり自転車に乗らなくなった。

もちろん、友達の自転車の後を走って追いかけることもない。

だって、大人だもの。

主に、自動車に乗っている。

自転車より楽だし。

おかげで足腰は弱っています。

追記)

ルービックキューブの(たぶん)本物は買えました…