10月12日の夕刻に衝撃的なニュースが入ってきました
将棋の竜王戦挑戦者となっていた三浦弘行九段(42)が、年末まで出場停止処分になったと将棋連盟が発表したのです
竜王戦を3日後に控えたタイミングで、突然の挑戦者出場停止処分の発表だっただけに、関係者も関係ない人もビックリぽん(古!)でした
ニュースなどでは、対局中に将棋ソフトを不正使用した疑いがあるため出場停止処分にしたと報道されていますが、どうも解せない!という意見がネット上では多く見受けられます
将棋ファン歴ウン十年の私なりに、今回の騒動について考えてみました
(三浦弘行九段)
疑惑の原因は将棋ソフト
将棋連盟によると、疑惑を持たれているのは竜王戦の挑戦者決定戦での対局です
対局時に何度も席を離れていたことから、控室などでスマホを使って将棋ソフトを不正利用したのではないかと疑われているわけです
ここ数年の間に将棋ソフトは急激に進化を遂げました
ご存じのとおり、プロの棋士でも勝つのが難しいほど強くなってしまったのです
特に終盤戦の「詰み」を読む力に関しては、もはや人間の知能が及ばない領域に達していると云われています
実際に、将棋の観戦や研究でも将棋ソフトを活用して「最善手」を調べている棋士がいるほどなので、将棋ソフトの強さをうかがい知ることができるというものです
それだけ強くなった将棋ソフトを利用して、自分の対局を有利にしようとする行為は、当然ながら反則行為です
最近ではコンピューター対人間が対戦する棋戦もでてきましたが、この類の対局は言わばエキシビションであって、どっちが強いかとか、人間がコンピュータに敵わない、なんていうことを証明しようとしているわけではないのです
そもそも将棋の面白さ、特にプロ棋士の対局の面白さというのは、人間が将棋を指しているから面白いのです
かの大山康晴永世名人の名言に「人間は必ず間違える」という言葉があります
そうなんです、人間は間違えるんです
でも、プロ同士の対局ともなれば、果たして何処で間違えたのかということが直ぐにはわかりません
そのくらいハイレベルな応酬が繰り広げられ、ギリギリの「勝負」が行われる中で、精神的なものや、疲れや、気力などの人間特有の要素によって間違えるということが起こるわけです
そのドラマが面白いのです
だから、精神的負担も感じない、疲れもない、気負いも無ければ落ち込むことも無いコンピュータ同士の対局は、最善手を探るという研究用には良いかもしれませんが、観戦用には向いていないといえます
人間が繰り広げるドラマだから、観ている人がワクワク、ドキドキするわけですから、感情のない機械同士の対局にドラマを感じることはできないのです
私は長い間「将棋を観るファン」として、プロの将棋を見続けてきましたので、近年の「人間よりコンピュータの方が強い」という現状に対して、ついつい熱くなってしまう次第なのです
さて、本題にもどりましょう
三浦九段の問題でしたね
これまで述べたとおり、コンピュータ将棋ソフトは、もはやプロ棋士を超えるレベルで「最善手」を発見する性能を保持するようになってきました
したがって、そういったレベルのソフトを対局中に利用することは、ある種「テストでカンニングをする」のと同じことになります
暗算の検定試験で、電卓を使うようなものです
三浦九段は昔から「研究の虫」として知られた棋士で、A級棋士の中で最も研究をしている人物だとも云われています
以前には、某・渡辺竜王が「若手に最新形の将棋を聞きまくっているA級棋士がいる。こんな人たちには負けられない」といった発言をしたとか、しないとかで話題になりました
この渡辺発言は三浦九段に向けられたものだとの噂が広まるほど、三浦九段はなりふり構わず最新形の将棋を探求していたということなのです
そんな研究熱心な三浦九段だけに、当然のように自身の研究に将棋ソフトを導入しているはずです
プロ棋士、特にトップクラスまで上り詰めた棋士の多くは「最善手だけで将棋を指すこと」を求め続けています
しかし、物理的な計算上では、そのような将棋を人間が実現するのは不可能だともいわれてます
最善手だけの将棋を指すということは、つまり「将棋の答え」を見つけるということ
そんな「答え」を本当に発見したら、ノーベル賞どころではないレベルで、人類の大発見になるくらいトンデモナイことなわけです
ところが、近年の将棋ソフトの急速なレベルアップによって、この「夢」の実現が近づいていると云われています
当然、三浦九段をはじめとする「答えを求めるトップ棋士」たちは将棋ソフトを活用して、日々の将棋の研究に明け暮れることになるわけです
以上を踏まえて
以上のことをふまえて、今回の騒動の真相を考えてみました
まず、三浦九段が疑惑を持たれた理由のひとつである「将棋ソフトの手と三浦九段の手の多くが一致している」という点についてです
日ごろから将棋ソフトを使って戦術の研究をしていた三浦九段であれば、自分の新手や新戦法についても将棋ソフトを活用して深い研究をしていたことは容易に予想できます
特にタイトル戦などでは、深い研究が勝敗を分けるカギになることもありますので、研究熱心な三浦九段ならば、初手から詰みまで研究した戦法を用意することも十分に考えられるわけです
そうなってくると、必然的に「ソフトを使って研究した手順」が盤面に出現することになり、結果として「ソフトと同じ手」を指すケースが増えることも納得できなくもないのです
もうひとつの「対局中の離席」についてです
テレビなどで名人戦や大きなタイトル戦の中継を見たことがある人なら分かると思うのですが
持ち時間の長い対局では、プロ棋士は結構な頻度で席を離れます
昔放送された、羽生善治対森内俊之の名人戦をNHKが密着した番組では、たびたび二人が離席している様子が映し出されていて、羽生さんなんかは対局場の中を庭を眺めながら散歩している様子まで放送されていました
つまり、対局中の離席というのは「よくある風景」なのです
なぜ、三浦九段だけが「対局中の離席が原因で疑われなければならないのか?
この部分について、ネット上でも疑問や不満を投げかける声が多かったようです
つまり、対局中の離席が多いというのは将棋連盟の方便であって、三浦九段が将棋ソフトを不正使用しているという疑いの根拠は他にあると見た方が良いのではないかと思うのです
たぶん、これが真相
たぶん
たぶんですよ
私が思うには
対局者などからのタレコミがあったんじゃないかと・・・
わかりませんけどね
もしも、三浦九段が本当に不正をしていたのであれば、それしか考えられません
だから、将棋連盟も出場停止処分に踏み切らざるを得なかったのではないかと推察されるわけです
まず、将棋連盟は、タレコミや噂話、離席状況、そして指し手の一致などの状況を見て、三浦九段に疑いを持ちました
そして、本人に事実確認をしたところ、当然「そんな不正はしていない!」となります
でも、将棋界にとって名人戦と並ぶビッグタイトルである竜王戦を、そのような疑われた状態で戦うことは不本意だ!という気持ちに三浦九段がなるわけです
そこで、「そんなに疑われたら気分が悪い!竜王戦にも出ません!」
ってなって
連盟は「じゃあ、一旦は休場届を出して休場扱いにして事実確認をしましょう」
という提案
しかし、三浦九段からすれば折角つかんだ竜王への挑戦権を失うことになるので
「休場でも出場停止でも、なんでもいいや!」ってな感情になるのです
一方で連盟側には、どうしても竜王戦の前に手を打っておかなければいけない事情があります
本来なら、竜王戦を延期して調査するという方法もあるわけですが、3日後に本番というタイミングなだけに今さら延期はできません
延期となれば、全国各地の対局会場の予約変更から、マスコミ、スポンサー、関係者の配置、もろもろの変更が必要になりますので、実質的に延期することは不可能なわけです
でも、この不正疑惑情報を連盟が知ったままビッグタイトル戦を行うわけにもいかない
仮に疑惑の主である三浦九段が竜王を奪取した場合、後になって不正が発覚すれば、それこそ取り返しのつかない大事になるわけです
ちなみに竜王のタイトル料は4200万円ですから、一旦賞金を授与したおいて、やっぱり「返して」というのはお粗末なことこの上ないのです
というわけで、連盟としては苦渋の選択でタイトル戦の前に手を打ったということではないでしょうか
挑戦者の変更であれば、大騒ぎになっても取りあえず収拾はつきます
しかし、タイトルホルダーの変更は大変です
代わりに誰を竜王にするの?
もう1回対局をするの?
だとしても誰と誰が対局するの?
などなど、物議をかもしまくる事態が待ち受けているわけです
ということで、連盟は、竜王戦の全日程が終わり、タイトル戦の余韻が冷める12月まで出場停止にして、その間に事実関係を詰めていこうと考えたわけなのです
というような考察をしたとこえろで、最後に一言
ニュースなどでは、あたかも三浦九段が不正をしたような報道が見受けられますが、事実関係は未だ不明なわけです
将棋ファンとしては、三浦九段の潔白を信じたいところなのです