将棋は伝統芸からゲームへ、そして完全解明へ(つぶやき)

趣味・旅行

若い人は知らないと思いますが…

と書いた時点で 既に老害感が半端ないわけですが、

まあ別に 年寄りなわけですから致し方ないところではあります。

話を戻します。

皆さんは谷川浩司という人をご存知でしょうか?

将棋で史上最年少の21歳で名人になった人です。

あ、知ってますか。そうでしょうね。

ただ彼の本当の凄さは、若くして名人になったことだけではありません。

谷川将棋の美しさ①

あれは私がまだ小学生だった頃の話です。

将棋を覚えたての私は、ようやく矢倉や四間飛車と言った定石の基本形を指し始めたばかりのズブのど素人でした。

それでも将棋の面白さに取り憑かれ、新聞の将棋欄を切り取り棋譜集めに邁進しておりました。

様々なプロ棋士の棋譜を見ていく中で 谷川名人の将棋だけが、ある種の美しさを持っていると感じたのです。

その当時のプロ棋士というのは◯◯流と呼ばれる人が多く、それぞれの棋士に独特の指し回しが見られました。

泥沼流と云われた米長邦雄(永世棋聖)は、一番端に 玉寄せる 米長玉 が有名です。

不利な展開から訳の分からない難解な局面に持ち込み逆転していく様は、まさに泥沼に引きずり込むアリゲーターのような怖さがありました。

だるま流と言われた森安秀光は、基本的に四間飛車しか指さない守り主体の戦法でした。

転んでも何度も粘り強く起き上がってくることから、だるま流と呼ばれていました。

そんな中、谷川浩司に付けられた通り名は「光速流」

終盤の寄せの速さや正確さからきたもの です。

後に羽生善治は語っています

「まだ中盤だと思っている局面から 突然詰ましに来る」

「ゴルフに例えるなら チップインバーディーを狙ってくるような将棋」

だったようです。

これが光速流と呼ばれていた本当の理由なのかもしれません。

このような エピソードから、谷川浩司は終盤が強い という印象を抱く人が多かった訳ですが、一方で序盤戦が下手という話も多く聞かれました。

谷川自身も当時「終盤は自信があるけど、序盤が下手でいけません」と自ら語っています。

しかし羽生善治の感想は違いました。

「谷川さんの序盤はヘタではありません」と後に語っています。

私が 谷川将棋に美しさを感じたのも序盤 や中盤でした。

谷川将棋の 美しさは、初手から詰みまで一直線に 計算しつくされた ような 差し回しから感じていたものかもしれません。

谷川名人の美しさ②

谷川将棋の美しさには、もうひとつの要素があります。

それは、谷川本人の立ち居振る舞いの美しさです。

谷川が脚光を浴び始めた当時の将棋棋士は、いわゆる「将棋指し」といった印象の棋士が多くいました。

大山康治、米長邦雄、升田幸三、坂田三吉など、将棋が強いこと以外は単なる破天荒なオッサンのオンパレードです。

そこへ、スラリとした高身長の好青年が登場し、21歳の若さで将棋界最高峰の名人をかっさらっていったのですから、そりゃあ世の中ワーキャーです。

谷川の美しさは見た目だけではありません。

谷川の将棋に向かう姿勢、対局姿、指し手の軽やかさ、指使いなどなど、将棋を指している谷川浩司そのものが、ひとつの「美」だったように思います。

当時、辛口ご意見番といわれた原田泰夫九段でさえ「谷川君は所作も名人」と言わしめたはど高尚なものでした。

その後、羽生世代と呼ばれる若者が台頭し、「将棋はゲーム」という考え方がプロ棋士の間で共通認識となって行きました。

将棋が伝統芸ではなくなったのは、この頃からです。

羽生世代の登場

羽生世代は確かに強かった。

しかし、谷川に見られる「美しさ」を彼らから感じとることはありませんでした。

タイトル戦に寝ぐせを付けたまま登場した羽生の姿は有名な話です。

秒読みに終われたときは、親指と人指し指で駒を摘まんで、まるで子供のように升目に置くこともありました。

彼ら羽生世代は、基本的に定石を疑って掛かることから研究を始めたわけですから伝統もクソもありません。

ここまで読んでくると、羽生世代を批判しているように感じると思いますが、違いますよ。

彼ら羽生世代が、将棋界の古さを打ち破り、新たなステージへ引き上げたことに感激しているのです。

古い伝統や仕来たりに囚われることなく、新しい「一手」を探求する姿は、まさに現代将棋の開拓者でした。

谷川と羽生の間には大きな隔たりがあります。

両者にとって「最も多く対局した相手」同士である二人。

この二人の対局は、将棋が伝統芸かゲームかを争う闘いでもあったように思います。

結果はご存じの通りゲームの勝ちです。

羽生善治の登場が将棋界の分水嶺といわれるのは、谷川を倒したからなんです。

指し手、所作、立ち居振舞いに至るまで「名人芸」だった谷川。

将棋の持つゲームとしての奥深さや広さを探求し極めようとした羽生。

そして今また新たな世代が躍進してきました。

それがAI世代です。

その代表格である藤井聡太七段の活躍 はニュースなどで広く知られていますので、今回は割愛。

将棋の本当の楽しみ方

時代と共に移り変わってゆく将棋の世界。

それは、無限に広がる宇宙の謎を解明しようとする研究者のしのぎ合いを見ているようでもあります。

谷川が名人になったころまでは伝統芸だった将棋。

谷川は駒を点数化し形成判断をするという数学的見地から将棋をとらえていました。

その後、羽生の登場で数学的な考え方での将棋の解明が加速していきます。

現代はAIを使って完全解明へ進んでいると言えます。

若い棋士の中には、将棋の完全解明を目標に掲げる者もいるくらいです。

でも、将棋の本当の面白さは、そこじゃないんですよね。人と人とが対局するから面白いんです。

かの大山康晴永世名人の言葉を借りるならば「人間は必ず間違える生き物」なのです。

人を惑わす指し手も戦法のひとつ。

コンピュータ相手では起こり得ないハプニングが起こるわけです。

そんな人と人とのやり取りがあるから、対局を見てワクワクドキドキする。

それこそが将棋を「観る」面白さなのです。

以上、指すことが苦手なので観ることに専念して辿り着いた将棋の楽しみ方でした。

ほぼ独り言みたいになりましたこと、心よりお詫び申し上げ、一本締めで締めたいと思います。

よーお、ポン!